第1章 目線
今見たのは幽霊か幻しだったんじゃないかと
なんだか不思議な気持ちのまま馬車を降りた
この家の子だろうか
細やかな装飾が施された巨大な木の扉が
観音開きに重く開く
するとひとりの背の高い男が出てきた
銀色の長い髪を後ろで軽く結い
知的な顔立ちをしている
「こちらへどうぞ」
きっと執事であろう彼は見たことの無い
深いルビーのような瞳をしていた。
(珍しいな…)
気になって横目でちらちらと彼を見ていると
気付いたのか刺すような恐ろしい眼差しで
にらまれた。
「!」
そのまま急いで玄関を通り抜けると
奥から今度はこの家の主人、ずいぶんと太った中年の男性がにこやかに出てきた。
彼の歓迎を受けたあと、
案内された部屋に荷物を置き
僕たちは準備された夕食の会場へと向かった。
「ようこそ我が家へ。乾杯!」
次々と贅沢なご馳走が運ばれてくる
大きな食卓には父と僕、
ご主人と奥様の他にこの家の
3人の子供達が同席していた。
ひとりはきっと10歳位は歳上であろう青年、ふたりは僕と同じくらいに見えた。
「長旅で疲れただろう。我が家だと思ってゆっくりしてくれたまえ」
「お招きいただき心から感謝いたします」
父とご主人は
お酒を飲みはじめてから間もなく
話が盛り上がり、楽しそうに談笑をしている
奥様と青年は時々会話に混じりながらニコニコとその話を聞いていた
一方、僕は黙々と食事を続けていた。
父の仕事で来ているんだと思うと
とても緊張して誰とも目を合わせられなかったからだ。
「ピーター君」
急に名前を呼ばれてビクッとしてしまった。
「君は本を読むのは好きかな?」
ふわんとした優しい雰囲気を持っている少年がやわらかい眼差しで話しかけてくれた。
さっき受けたご主人からの紹介によると
彼は三兄弟の真ん中、フェイ君だ。
「ぇ…はい!ほ…本、好きです。はい!」
「ふ」
緊張のあまり少し噛んでしまったのを
フェイ君の隣にいた少年に鼻で笑われてしまった。
彼は、ルーク君。フェイ君の双子の弟だ。
二人は顔も姿も身長もまさに瓜二つ。
違うといえばルーク君の方が活発で男の子らしい印象を受ける。