第2章 期待
書庫を後にした僕たちは
次に中庭へ向かった。
「ここは庭中、薔薇だらけでね。珍しい種類のものもたくさんあるんだ」
日中の庭は本当に美しかった。
これも薔薇なのかと思うような見たことのない、色や大きさの物もあり
また、上品な香りが心地よくて
何度も深く吸い込んだ。
「向こうには垣根で出来た迷路があってね。昔ルークとよくかくれんぼして遊んだよ」
フェイ君に続いて歩く。
迷路の反対側に林があり、
その向こうに温室があるんだと言う。
そこも花だらけらしく
ぽかぽかと心地がいいから昼寝にはもってこいの場所で、もしかしたらルーク君がいるかもしれないと探しにいくことにした。
やがて、こじんまりとした温室につく。
外から中が見えないほど草の蔦が絡み付いていて、随分と年季が入っていた。
「ルーク……いるかい?」
ギィィ
錆び付いたガラスの扉を開くと
ルーク君ではなく、あの少女がいた。
「あ、君!またこんなところで…」
言いかけたとき、
「何してるの」
ふわっと振り返った彼女に
今までとは全然違う
冷たく低い声でフェイ君が問いかけた。
「なんでここにいるの?」
優しかった眼差しが一変し
まるでゴミでも見るような
鋭く刺す目付きへと変わる。
訳がわからなくて二人の顔を交互に見比べた。
「そうだった。君喋れないんだっけ……汚らわしい。」
「今すぐここから出ていってくれないかな」
刺々しい言葉を彼女は無表情で受け止める。
そして言われた通り、無言で僕たちの横を通り抜けて温室から出ていってしまった。
遠く消えて見えなくなるまで、フェイ君のそのおぞましい目付きは続いた。
「……フェイ君?」
しばらくして、パッといつもの優しい顔に戻る。
「ごめんね。随分汚いものを見せちゃった」
(汚いって……)
「…あの子、知ってるの?」
「今の?、アナリアのことかい?」