第5章 嫉妬
───木曜日。
今日はあいにくの雨である。
午後の片付けが終わってからケーキ作りの道具を買いに出かけようと思っていたのだが、朝から全く止む気配のない雨は地面にいくつもの水溜まりを作っていた。
こんな雨の中外に出れば、間違いなく土方さんが買ってくれたお気に入りの着物は汚れてしまうだろう。
私は座ったまま縁側の柱に片身を預け、そっとため息をついた。
「お疲れ様です、こはるさん。」
「あら、山崎さん。今日は非番なんですね。」
今日はめずらしく私服姿の山崎さん。
「こんな雨じゃミントンもできないしね。」
そう言うと山崎さんは私の隣に腰掛け、そのままゴロンと後ろに寝そべった。
「ほんと、出かけたいときに限って雨なんですもんね。」
そして私はもう何度目かわからないため息を吐く。
「なんか用事?」
「んー、ちょっとお菓子作りの道具とかお弁当箱とか色々買いたくて。」
すると、山崎さんは勢いよく起き上がった。
「じゃ、じゃあさ!一緒に行こうよ!」
「え?でも……」
「大丈夫!ほら、せっかくだからさ、ね?」
***
さすがに着物が濡れるのが嫌だった私は、最初に着ていた服に着替えた。
「すみません山崎さん、お待たせしました。」
「いや、全然待ってないよ!じゃあ、行こうか?」
玄関には既に山崎さんが待ってくれていた。
私は慌てて部屋から持ってきたパンプスを履き、山崎さんの後を追いかけた。
山崎さんは玄関を出たところで傘を開いて待っていてくれた。
「あ、私傘ない……」
「気にしないで。ほら、一緒に入ろ。」
「すみません、ではお邪魔します。」
山崎さんの傘に一緒に入れてもらい、屯所を出ると、入口の前にタクシーが1台停まっていた。
「濡れちゃうから籠で行こう。」
「え、あ、はい!」
そうか、籠ってタクシーのことだったのか。
私は先日の疑問が解消されたことに満足しつつ、山崎さんに促され、籠に乗り込んだ。