第3章 春の匂い
女中として真選組で働き出して一週間が経った。
最初こそ慣れない大量の食材に驚き、味付けも感覚が掴めず時間も掛かっていたが、厨房当番の隊士達が手伝ってくれることもあり、なんとか仕事の合間に余裕ができるようになってきた。
金曜日の今日はカレーライスだ。
昨日のうちから作っているので今日は温めて盛り付けるだけ。やっぱりカレーは一晩寝かせるに限る。
副菜のポテトサラダと生野菜サラダは既に下ごしらえも済んでいるので午後はまるっと自由時間だ。
自室に戻ると、仕事用の桜色の着物を脱ぎ、土方さんがプレゼントしてくれたお出かけ用の着物に袖を通す。
「……ん?あれ?」
普段着ている仕事用の着物は、木綿で比較的張りのある生地だが、これは絹で出来たサラサラと柔らかい生地で、なかなか着付けが上手くいかない。
何度やっても着崩れてしまう。
簪はなんとなく使えるようになったものの、着付けはまだまだ苦手だ。
「土方さん、いらっしゃいますか?」
私が壁越しに隣の部屋の主に声をかけると、
「どうした?」
と短く返事が帰ってきた。
土方さんは、今日は溜まった内勤のお仕事をやるといって、朝からずっと自室にこもっている。
「あの……着付けが上手くいかなくて。」
そう言うと、しばらくして自室の障子に土方さんらしき人影が映る。
「……開けるぞ。」
「はい。」
障子が開けられると、少しやつれた表情でタバコを咥える土方さんが現れた。