第7章 傷
自転車を引くイッチーの隣を、並んで歩く。
もう空はすっかり真っ暗。けれど、たくさんのお店が建ち並ぶ大通りは、夜だなんてことを感じさせないくらいに数多の光で溢れていた。
学校を出てから、私たちの間に会話らしい会話はない。さっきの話の続きもそうだけど、久しぶりだからいろいろ話したいことはたくさんあるはずなのに。
でも不思議とこの沈黙が、私にとっては不快ではなかった。むしろ心地いいというか。
ひとまず仲直りはできた?し、それなら明日からもまた話す機会はあるよね。
…あ、結局何も話さないまま駅に着いちゃった…。
「…じゃあ、ここまでで。気を付けて帰れよ」
彼は短くそう告げて踵を返す。
せ、せめて最後にこれだけ…!
「イッチー!」
その背中が人混みに消えて見えなくなる前に、反射的に呼び止める。
彼は歩く足を止めて、首だけ動かしこちらを振り返った。
「ま…また明日ね!」
「…!」
ほんの一瞬だけ、彼が驚いたように目を見開く。
唇が僅かに動き、何かを言いかけて…それでも言葉は発せられないまま、彼は再び前を向く。
…やっぱり、まだ…
「……また明日」
「!」
周囲の音に紛れてしまいそうなくらい小さな声だったけれど、確かに聞こえた。
…¨また明日¨、と。
「…イッチー…」
少し歩いたところで自転車に乗った彼が走り去っていった方向を、私はいつまでも見つめていた。