第16章 追想の愛
たった、その一文だけだった。
彼女が海外に行ったのは、後から兄弟に聞いてやっと知った。
そりゃないだろって思ったけど、
¨また会えたら¨って言葉が、かろうじて俺を繋ぎ止めてくれた。
自分から別れを告げたくせに、未練ありまくりの後悔しまくりだった俺には、この手紙が唯一の頼みの綱だったんだ。
なのに、彼女からの連絡は高校卒業後に来た一通の手紙のみ。それも他愛ない内容。
再会の目処も立たないまま、はや6年。
偶然街で彼女を見つけて、驚きですぐに体が動かなくて、
気が付いた時には、彼女は車に跳ね飛ばされていた。
ほぼ無意識に、彼女の元へ駆け寄った。これができるなら、なぜさっきは動けなかったのか。激しく後悔しながら、血の気を失い冷たくなっていく彼女を抱き締め、必死に呼び掛けた。
…それからの記憶は曖昧だ。救急車に付き添いで乗ってからは放心状態で、しばらく面会も謝絶だったから精神が不安定だったんだと思う。
ようやく会えても、俺と一松に対する第一声が、¨どちらさま¨ときたもんだ。
おかげで、開きかけてた心がまた鍵をかけちまったよ。
…どうすればいいんだろうな、俺。誰か教えてくれよ。
自分の人生すら決められない優柔不断で情けない俺を、叱咤してくれよ…
煙の吸いすぎなのか、頭がガンガンと痛む。苦痛に顔を歪めたその時、なんの前触れもなくドアの向こうから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「…おそ松兄さん」
「……一松?」
その低く抑揚のない声は、誰のものか聞いてすぐに分かった。
あいつが俺に用なんて珍しいな…っていうかここ最近全く関わってなかったし。
「…彼女が呼んでる。今すぐ病院に行って」
「は…?」
彼女?彼女って…鈴?
いや、そんなはずはない。だってあいつは…
「記憶が戻ったんだ。おそ松兄さんに会いたいって言ってる。だから早く行ってあげなよ」
「…!!」
マ、ジかよ…大体、なんで一松がそんなことを知ってるんだ?こいつだって、鈴と会うのを避けてたはずなのに。
「…ねぇ、聞こえてる?まさか無視してるんじゃないよね?」