第16章 追想の愛
「……謝るなよ。謝らなきゃならないのは…俺の方だろ」
「…イッチー…」
俺は椅子から立ち上がり、彼女に向かって深々と頭を下げた。
「ごめん。俺は最後の最後で、お前から逃げた。自分の殻に閉じこもって、現実を見ないようにした。約束も守れなかった。こんな言葉だけじゃ全然足りないけど…本当に、ごめん…!」
…初めてだ。誰かに頭を下げるのは。
特別プライドが高いってわけじゃない。むしろそんなものは大人になった今は欠片もない。
心から申し訳ない気持ちになったことがない。俺はクズだから。善人じゃないから、嫌われるのも当然。
でも、せめて彼女にだけは、
彼女の前では、¨僕¨のままでありたい。
彼女が好きになってくれた、僕のままで…謝りたい。
かっこ悪くたっていい。滑稽だと笑い飛ばされてもいい。
…これが今の僕にできる、精一杯だ。
「…イッチー、もういいよ。頭、上げて?」
優しい声につられ、ゆっくりと上半身を起こす。俯いていた彼女も、顔を上げていて…泣き腫らして赤くなっている目元が痛々しいけれど、それでも彼女は微笑んでいた。
「私は、あなたのことを怒ったり、恨んだりなんてしてない。もう、お互いに謝るのはやめよう?…また会えて嬉しい、イッチー」
「っ……ああ、俺も」