第15章 涙
【チョロ松side】
「……本当に、いいの?」
久しぶりに会った彼女は、俺の問い掛けに無理に笑ってみせた。
「うん。ごめんねチョロりん、急にこんなこと頼んじゃって」
「それは構わないけど…どうしても、直接会う気はない?」
「……うん。ごめんね」
一時間ほど前。彼女から連絡が来た。
¨お願いがあるの。公園で待ち合わせできないかな?¨
今日は日曜日。特に予定のなかった俺は、他の兄弟には何も言わずに待ち合わせに応じた。
ただの誘いではない、そう思ったから。
案の定、その予感は的中した。
開口一番に、彼女が放った言葉。それを聞いて一瞬、心臓が止まりかけたよ。
彼女の瞳を見て、冗談ではないとすぐに分かったけれど。
そして、彼女から渡された2通の手紙。
真っ白な封筒。それぞれ隅には小さく、渡す相手の名前が記されていた。
¨おそ松くんへ¨¨一松くんへ¨
「ワガママなのは十分分かってるの。でもお願いします、その手紙を二人に届けてください」
そう言って深く頭を下げた彼女を、俺は呆然と見つめていた。
言い訳も何もない、ただ伝えるべきことだけを淡々と述べ、終始気丈に振る舞う彼女が逆に痛々しかったんだ。
「……分かったよ。君の頼みなら断れないしね」
「…ありがとう、チョロりん」
本当は、会って直接渡すべきだと思うし、彼女自身も一度はそう考えたはずだ。
俺は、3人の間に何があったかを、詳しくは知らない。なんとなくでしか分からない。だからきっと彼女も、仲介役に俺を選んだのだろう。
別にそれはいいんだ。
ただ、無理に作っている彼女の笑顔を見るのが…辛い。
「見送りはいいの?」
「ううん、大丈夫。平日の昼間だからみんな学校あるでしょ?気持ちだけ受け取るね」
「…そっか」
「お願い、聞いてくれて本当にありがとう。チョロりん、みんなも、元気でね」
「……うん」
¨元気でね¨
そんな別れの挨拶を彼女からされるなんて、思ってもみなかった。
…俺が悲しみに暮れるのはお門違いだ。せめて、与えられた役割をしっかり果たそう。
それが彼女の…最後の願いならば。