第13章 本音
彼女が、ゆっくりと深呼吸する。
そして、俺の手に自身の手を重ねた。
「!え…っ」
「ごめんね。しばらく、こうしていてもいい?」
「……あ、ああ…」
触れた部分から、彼女のぬくもりが伝わってくる。
しばらくってどれくらいだ?あまり長い時間は耐えられそうにないんだけど。
…でも…嫌ではない。
彼女は目を瞑ってもう一度深呼吸をし…
やがて覚悟の籠った眼差しで、俺を見据えた。
「…イッチー。答えたくなかったら、無理にとは言わないけど…できれば答えてほしい質問をしてもいい?」
「……どっちだよ、それ」
「こ、答えてほしい!…です」
「……うん、いいよ。何?」
「…昔…その、イッチーが中学生だった頃のこと…お、教えてほしい、の…」
…やっぱり、か。
これはいずれ聞かれるだろう、とは思っていた。文化祭の日にうっかり口を滑らせてしまったし。
仮にあの日からずっと気になっていたとして…鈴は兄弟の誰にも尋ねなかったのだろうか。
それか、聞いたけど教えてもらえなかったか。後者の可能性の方が高いな。
俺は静かに瞳を閉じる。…今でも脳裏に甦る、あの忌まわしい記憶。
「……イッチー?」
「……」
今なら…彼女に全てを打ち明けられる?
いや…今しか、ないのかもしれない。
再び視界が開ける。彼女が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫…?」
「…ああ…うん」
少しだけ微笑んで、彼女の頭を撫でる。くすぐったそうにしながらも、彼女も微笑み返した。
「…どこから話せばいいかな…まぁでも多分、あんたが期待してるほど大それた話じゃないよ」
「それでもいいよ。私は、イッチーのことを、ちゃんと知っておきたいだけ」
「……そう。じゃあ」
聞き終えた後、彼女がどんな気持ちになるのかは想像に難くない。
もしかしたら、また泣いてしまうかもしれない。
…それでも、俺のことを知りたいと願ったのは彼女だ。
なら俺は同じ罪人として、彼女の想いに応えなければ。
…語り始める。昔話というには大げさすぎて、単なる思い出話にするには残酷な、¨僕¨の話を。