第12章 羨望
【鈴side】
文化祭から、数日が過ぎた。
あの宣言通り、イッチーは学校には来ていない。
彼はほとんど保健室にしかいなかったから一緒にいる時間も元々そんなに長くなかったし、特に最近は避けていて丸1日会わないのが普通だったから、数日経ったくらいじゃまだ実感が湧かない。
でも…心にはぽっかりと穴が空いてしまった。
退学したわけではなく、あくまで休んでいるだけ。つまり待っていればいつかは戻ってきてくれる。
家にはいるんだから、絶対に会えないなんてことはない。
…分かってはいても、
私から会いに行く勇気はないんだ。
それすらも彼は見透かして、あんな風に突き放したのだろうか。
…どちらにせよ、もう戻れない。彼がいないだけで、こんなにも辛く苦しい気持ちになるなんて…
***
今日は日曜日。家にいるのが息苦しく感じて、私はなんとなく外に散歩に出掛けた。
宛もなく歩き続け、広い大通りに出る。休日のせいか、家族連れやカップルが楽しそうに会話しながら大勢行き交っていた。
対して私はただ1人。なんだか余計に息苦しくなる。これなら家にいた方がマシだったかもしれない。
…¨彼¨は今頃、何をしているんだろう。
……¨彼¨?
それは、どっちの?
「…っ」
自分で自分が嫌になる。
私…おそ松くんと付き合うようになって、頭の中はいつもおそ松くんのことでいっぱいだった。
授業中も、家にいる時も、友達といても1人でいても、まず頭に浮かぶのはおそ松くん。
それが…いつからだろう。
私の中に、もう1人増えたのは。
…その人を想う気持ちが生まれたのは。
いつからだろう。
おそ松くんのことより…¨彼¨のことを想う時間が長くなっていったのは。
私は、やっぱり…
ドンッ
「わ…っ」「きゃっ…」
っいけない、考えごとしながら歩いてたから誰かにぶつかっちゃった。謝らないと…!
「す、すみません!大丈夫でしたか?」
「あ、ああ、俺は全然。君こそ……あれ?」
「!か、カーくん?」