第11章 軋み始める関係
意を決して、中に入る。広い室内にただ1人、席に座って机に突っ伏す彼女がいた。
寝ている…のだろうか。扉の音で気付くはずだが、彼女は顔を上げようとしない。
前の席に座り、覗き込んでみる。腕に隠れて、彼女の顔は全く見えない。
…参ってるって、俺と別れてから今までに一体何があったっていうんだ。
仕事疲れか?それにしてはなんかこう…醸し出す空気が重いっていうか。っていうか鈴はそんくらいで落ち込んだりしないだろ。
「…鈴〜?大丈夫か〜?」
小さく声をかけてみるも無反応。…おいおい、まさか疲れすぎて死んでんじゃないだろうな?あ、息はしてる、よかった…じゃなくて。
んー、寝てんなら無理に起こすのも悪いよな。起きるまで待っててやるか。しかし参ってるってあれ嘘だったの?そうは見えなかったけど。
耳を澄ますと、微かに寝息が聞こえてくる。やっぱり疲れてるだけか…?
手持ち無沙汰でつまらなく感じ、俺は彼女の頭をそっと撫でる。ふわふわの柔らかい髪。俺好きなんだよなぁ。
「…ん…」
あ、やべ。起きた?
彼女の頭がゆっくりと持ち上がる。とろんとした焦点の合っていない瞳が、俺を捉えた。
「わ、悪いな鈴、まだ起こすつもりは…
「…いち、まつ…くん…?」
「……え」
一松…?今こいつ、俺の顔見て一松って言ったか?
「お、おーい、鈴?俺だって」
「…?……!!」
分かりやすいようにさらに顔を近付けると、彼女は目を見開いた。
ガタガタガッターンッ!!
Σ「おッ、おおお、おそ松くん!!?」
「よう、おはようさん」
椅子に座ったまま、後ろの席も巻き込んでの見事な後退り。そこまで驚かなくても。
「あ、あの、なんで、こっ、ここに…!」
「んー?君のお友達が連れてきてくれたの。半強制的にだけど。っていうか鈴、寝癖ついてるよ?」
「へ?!」
俺の一言でさらに取り乱しながら、ポケットから出した手鏡で確認し、わたわたと櫛でとかし始める。