第10章 憂鬱
【チョロ松side】
トド松の台詞に、息を呑む。
見透かされてる。彼女…鈴に対する、俺の感情。その全てを。
何があっても隠し通すと決めていた。他の兄弟、ましてやおそ松兄さんや彼女にだけは悟られてはいけない。気の迷いだったと綺麗さっぱり忘れられるようになるまで、この気持ちだけは心の内にしまっておこうとしていたのに。
「……はぁ」
ため息が漏れる。
俺、分かりやすいのかな…。カラ松兄さんと一松からあらかた聞いてるんだろうし、もう言い逃れはできそうにない。
…だったら、話してしまおう。
「女の子として好き、まではいかないと思う。でもそれは、あくまで¨おそ松兄さんの恋人¨っていう前提があるからギリギリのところで踏ん張れてるだけなんだ。もし彼女に恋人がいなかったら…多分…」
「……」
トド松は、黙ったまま。
どんな顔をしているかなんて見たくない。絶対俺に幻滅してる。特にこいつや一松は、なんだかんだおそ松兄さんに懐いているから。
…暫しの沈黙の後。トド松から衝撃の台詞が飛び出した。
「あーあ、やっぱりチョロ松兄さんもかー!」
「……え?」
床に仰向けに寝転がり、両手を宙に伸ばすトド松。俺の想像とは裏腹に、表情はどこか穏やかだった。…いや、
まるで何かを諦めきっているような…寂しさも滲ませていて。
「トドま…
「ごめんね、兄さん。僕に兄さんを責める権利なんて、本当はないんだよ」
「…どういう、意味?」
トド松が、ふっ、と小さく笑う。おかしいからじゃない。自虐的な、虚しささえ感じる笑み。
「……中学の時、街で偶然彼女に会ったんだ。ほんの数分だったし、二言三言しか言葉を交わさなかったけど…あれからずっと、片思いしてたんだよね」
「…!」
初耳だった。
こいつにかつてそんな出会いがあったのも、恋をしていたのも、その相手が彼女だったのも。
…でも、そうか。だからこんな切ない表情を浮かべているんだな。
俺がこいつの立場だったら、耐えられない。笑える余裕なんてない。