第1章 金髪の彼
「茜ー、呑み過ぎだよー」
失恋のイライラと、仕事のイライラ。
そのふたつを解消するために選んだのは、仲のいい女友達との呑みだった。
とにかく愚痴り、呑んで、イライラはもう本気でどっかいっちゃってて、いまはすでに惰性で呑んでるっていっても過言じゃない。
「おねえさんたち、楽しそうだね。俺も参加してい?」
薄暗い店内は少しずつお客さんが減って来ていて、そんなに時間がたっていたのだなと改めて思った。
追加でアルコールを注文したばかりの私たちのところに、自分のグラスを持った男性が声をかけてきた。
どうやらすぐそばのカウンターで、呑んでいたらしい。
「んー?」
ぼんやりと目線を上げてその姿を確認すると、鮮やかな金の髪。
鬣を思わせるようなそれは、あまりにも綺麗だった。
「おにいさん、綺麗だねー」
酔っ払った勢いであまりにも素直に出た言葉。
ぼんやりおにいさんを見つめていたそんな私に友達が、
「茜私もう帰んなきゃなんない」
スマホの画面を見せてきた。
そこには、今から迎えに行くと彼氏さんからの伝言。
「あーそっかぁ。じゃあお開きに……」
まだ私たちの返事を待ってくれているおにいさんの存在を忘れてそう言うと、
「えー、おねえさんはまだ大丈夫なんでしょ?だったら残って俺と呑もうよ」
食い下がってきた。
「じゃあ私の代わりにおにいさんに託して帰るよ。茜もまだ呑み足らないんでしょ?」
目の前には先程注文したばかりのカクテルが届けられている。
「でも……」
「私と呑みに来たのに悪いって思ってる?私こそ最後まで付き合えなくてごめんなんだから気にしないの!ねっ」
「俺もそう思うよー?」
私の目の前に座りながらおにいさんも言った。
「ほら、彼氏迎えきちゃったからまたね」
千円札を数枚テーブルの上に置いて、着信音が鳴り響くスマホをもう一度私に見せてくる。
「茜もオトナなんだから自己判断でがんばって!」
立ち上がって彼女を出口まで送って行った私に、そう言ってきた。
「自己判断って……」
「見た限り悪そうな人じゃないし。なにかあったら今度また話聞かせてよ」
私の肩をぽんと叩いてほぼ強行突破ぎみに私を置いて友達は帰って行ってしまった。