第8章 猫王子と夏休み
「俺も昔は全力でバスケに取り組んだ。誰よりも練習したし、誰よりもバスケが好きな自信があった。だけど、全中の試合で気付いちまった。いくら上手くなったって相手のやる気まで失っちまったらもうバスケの何が楽しいんだって」
『…何その贅沢な悩み。まぁ一言言わせてもらうなら、甘ったれんな、だね』
「お前にはわかんねーよ。分かってほしいとも思わねぇ」
『分かりたいとも思わないよ。天才の悩みなんて。…って昔のあたしなら言ってたけど、今ではそうは思わない』
どういう事かと聞けば、赤司と同じような理由で喧嘩をしたらしい。天才も努力をしていると分かったは、天才という言葉で片付ける事をやめたと言う。
『確かに青峰は誰よりも強いかもしれない。同じキセキの世代の黄瀬君でさえも勝てなかった。だけど世界は広い。青峰より凄い人なんてすぐに現れるよ』
…昔、同じような言葉を聞いた。忘れるはずもない、テツの言葉。
「…昔、お前と同じ言葉を俺に言ったやつがいた」
『そう。とても素敵な人なんだね』
「そうだな…って、さりげなく自分も素敵な人だと思ってねーか?」
『ばれたか』
はケラケラと笑う。なるほどな、赤司が気に入るのも分かるわ。
『それじゃああたしはもう行くよ。元気でね、ガングロ』
「ガングロ言うな!…お前ぇもな」
『素直じゃないなー。あ、そだ。最後にこれはあたしからのお願い。…バスケを嫌いにならないでね』
「…ったりめーだ」
『あっそ。じゃーね、青峰。京都に遊びに来た時にはしょうがないから案内してやるよー!』
ったく、掴めない女。さっきはあぁ思っちまったけど、赤司、礼を言うぜ。に会わせてくれて、サンキューな。
「…いるかっつーの」
なんつーか、今は少しバスケ、してぇかも。