第8章 猫王子と夏休み
奈央「堪忍な、黄瀬君。この子バレー部だし、芸能界とかよく知らへんから…」
「いッスよ。俺もまだまだって事ッスよ!じゃあ俺、本当に急いでるから!」
『おう!帰れ帰れ!その綺麗な顔に傷が付く前にな!!!』
「なんスかも~。俺何か悪い事したッスかね?まぁいいや。それじゃあ」
黄瀬君は呼ぶ前にいた場所へと戻って行く。その間中ずっと威嚇してやった。あいつのせいで奈央が可笑しくなったし、そのせいであたしが責められるし…良い事なんて1つもない!
奈央「し、死ぬかと思った…黄瀬君ってあんな顔もするんやね…」
『…奈央ちゃーん?もしかして奈央ちゃん、黄瀬クソヤローの事が…?』
奈央「…なぁ。ウチが前、ウチが会ったら教えるって言った人覚えとる?」
『球技大会の時の?』
奈央「そう、それや。あれな、黄瀬君の事やねん。中学2年の時好きやった男子がバスケ部でな、全中出るから見に行ってん。その時帝光の試合見て、黄瀬君の事知ったんや。その時の黄瀬君、凄くキラキラしとったんや。本当にバスケが大好きで、一生懸命に汗流して。他のキセキの誰よりもウチには輝いて見えたんや。その時好きだった男子よりも。一目惚れやけど本気で好きやねん、黄瀬君の事」
顔を真っ赤にして必死に伝えてくれる奈央は凄く可愛かった。さっき思った事は事実だけど、奈央が幸せになるなら、あたしはそれを応援したい。
『…奈央、奈央は可愛いよ。それで凄く優しくて強い。奈央の良さあたしがよく分かってる。だから、頑張れ』
奈央「…ありがとう。ほんまありがとう!!!」
『奈央を取られるのは悔しいがな…って、何か忘れてるような…あーーーー!』
奈央「うるさっ!何やねん!今そんな雰囲気ちゃうやろ!?ほんま、良い事言ってもはやな」
『すっごい失礼な言葉聞こえたけど今は水に流そう!そうじゃなくて、タオル!それ黄瀬君のじゃないの!?』
奈央「…あーーーーーー!!!!」
慌てて黄瀬君の姿を探すと、もう諦めて下に降りようとしているところだった。
『黄瀬涼太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「!!」
黄瀬君はビクッと肩を震わせると、キョロキョロと振り向いた。ブンブンと手を振ると、こちらに走って来てくれた。あたしも奈央の手を取り、少しでも黄瀬君に向かって歩いた。