第8章 猫王子と夏休み
『…なんで?アンタ天才じゃん。練習しなくても強いんでしょ?』
「…そうだな。最強は僕だと思っている。だが練習をしなければ最強であることもなくなる。僕にとって勝つ事は呼吸に等しい。そのための努力だって呼吸の一部だと思ってる」
『…何それ…分かんないよ…』
本当は分かっていた。赤髪が、赤司が努力をしてる事くらい。天才であるにも関わらず、誰よりもストイックに練習をしてきた事くらい。赤司の手、体つき、別の匂いでごまかしても残る汗の匂い。全部分かっていた。
「…そうだな、にはまだ難しいかもしれないね」
『何で!?あたしを怒ればいいじゃん!あたしが言った事否定すればいいじゃん!』
「なぜ否定するんだ?は間違った事を言ってるとは思わないんだろう?だったら否定する必要がどこにある。価値観なんて違ってこそ当たり前だ。だから面白い。」
どうして赤司はこんなにも強いんだろう。どうしてこんなにも敵わないんだろう。
『赤司、ごめん。あたし本当は分かってた。赤司が誰よりも練習してきた事も、誰よりも自分自身に厳しい事も。確かに赤司は天才だよ。ネットで調べて赤司の記事、見たんだ。だけど、その分今の赤司も見てきた。赤司はあたしの知ってる赤司だった。それなのに自分勝手なことばっか言ってごめん』
「…分かってもらえたならそれで十分だよ。が気にすることではない。…と言いたいところだけど、と喧嘩してから凄く調子が悪いんだ」
『えっ!?ご、ごめん…どうすれb』
「仲直り」
『え?』
「仲直り、してくれるかい?ポチ」
『…うん!もちろんだよ、王子!!!』
あたしは嬉しくなって赤司に飛びついた。その反動で2人して床に倒れる。赤司は顔を真っ赤にしてたけど。お互い汗でべっとりしてるのに、気にせずくっつき合った。赤司はあたしの頭を撫でてくれる。
『王子、頭撫でるの好きだよね』
「…ポチに褒美を与えてるんだよ」
『ふーん?あ、王子の汗いい匂いする。汗まで王子かよ、ムカつくな』
「…ポチのは汗までポチだな」
『あたしの汗は犬臭いってか!!やばい立ち直れないくらいショック…』
「ハハハっ」
『IH、優勝してね』
「…もちろんだ」
仲直りした夜、施錠時間までずっと話していた。