第8章 猫王子と夏休み
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夏休み中盤の部活。新しいチームとなり、次の一歩へと進んでいた。世間ではもうIHが始まろうとしていた。
いつものように部活が終了し、居残り練習をしながら考える。最後に赤司と交わした言葉が忘れられない。
あたしは弱い。そして、凡人。
くよくよしてても仕方がない事は分かってた。赤司の言う通り、次に進まなきゃいけない事も分かってた。それでも…
『チッ…』
舌打ちをすると、自分でボールを投げアタックを撃った。今日は気分が乗らない。時刻も夜10時を回る。そろそろ切り上げようと思い片づけをし、部室へと向かう時、その光景を見てしまった。
「ハァっ…ハァっ…クソっ」
少しだけ開いている別の体育館から見えたのは、あの赤髪だった。他の部員は見当たらない。見えるのは、床に転がったたくさんのボールと、1つのボールを必死に動かす赤髪の生徒。
『な、んで…』
呟いたのと同時にバレーシューズが手から滑り落ちた。落下した時の音が響く。赤髪はそれに気付いた。
「…」
暫くの間、赤髪とあたしはその場から動けなかった。
沈黙を破ったのは赤髪だった。
「…いつから見てた?」
『…アンタが、シュート外すとこ』
「そうか…かっこ悪いな、僕は」
赤髪は再びボールをつくと、ドリブルを行いシュートを撃った。しかし、またもそのシュートは入らない。
『…下手くそ』
「…どこぞの犬と喧嘩してからずっとこの調子だ。今まで練習してたのかい?」
『…うん。あんたも?』
「そうだな」
『IH前なんでしょ?こんなに遅くまでやってて大丈夫なの?疲れない?』
「問題ない。いつもこの時間までやってるからな。体はもう慣れている」
赤髪はもう一度ドリブルからシュートを撃つ。今度は綺麗に入った。