第16章 猫王子と怪我人
『そこからの推薦を蹴ったのはあたしが初めてらしくて、何としてでも口外させないようにあらゆる脅しをかけてきた。だから言えなかったし、正直に言えば言うつもりも無かった。さっきも言ったけど、あたしは洛山バレー部として勝つつもりでいたから』
「…らしい考えだ」
『でもね、現実はそう甘くなかった。今の監督は結構有名な人で、雇うにもかなりのお金を出してるみたい。だけど、結果は出ない。だから理事長は監督に言ったの。次の新人戦で結果を出せなければ、解雇だって』
は悔しそうにボールをギュッと抱きしめる。その小さな肩は震えていた。
『今の監督はすごくいい人で、選手としても尊敬できる立派な人なの。何よりあたし達選手の事を一番に考えてくれる。だからこそ、あたしの力が必要なんだ』
「しかし…」
『…自分で言うのもアレだけど、洛山の今のエースはあたしなの。先輩が引退して明らかに戦力ダウンしている今、あたしが抜けるわけにはいかないの』
「だから練習をしていたのか」
『だけど…体重をかけるだけで足が痛む。まともにサーブすら打てない。それが悔しくて仕方がない』
僕はにかける言葉が見つからなかった。いや、探そうとしなかった。今はどんな言葉をかけても、何の気休めにもならない。その代わり、僕はを思いっきり抱きしめた。
『あ、あか…し…』
「僕が傍にいるから」
『赤司…』
「は1人じゃない。だから、1人で悩む事なんてない」
『1人じゃ…ない…?』
「あぁ。僕だけじゃない、川崎も飯塚も、皆いる」
『けどあたしのせいで監督は!…ううん、何でもない』
「…、提案がある」
『提案…?』
「今日、僕の家に泊まらないか?」
『…は?』
あ、やばい。今のを放ってはおけないとはいえ、勢いで言ってしまった…穴があったら入りたいとは上手く言ったモノだ。