第3章 〈其の手を〉
私に向かって差し出された手を取り、立ち上がった。
すると帽子の男は私の手を引き、すたすたと歩を進める。
其の儘、男の所有物であろう黒塗りの車へ近づいて行く。
「乗れ」
その一言だけ彼は云い、自分はさっさと車に乗り込んでいた。
此れに乗りそびれたら、自分の事が何一つ分からなくなりそうな気がして。
覚悟を決めて助手席側のドアを開け、其方へ乗り込む。
ドアを閉めチラリと男を一瞥するが、此方の視線に気付いていないのか、はたまた無視をしているのか良くは分からないが、目が合うことは無かった。