第2章 飴玉と名波さん。
「雨。風も強くなってきたわね。お客さん、来ないかしら。でも、雨の日だもの。誰も来ないわよね。」
そんな私の独り言を聞いていたミケは、溜息をついた。
「あかりには分からないだろうけど、古くからの決まりなの。お客さん来ないかもう一度見てきて。」
意地悪な奴。
私はそう思った。しかし、見に行かないとまたミケに何か言われるので、あめ色のあまがっぱを着た。玄関に出て、黒い長靴を履いて、外に出る。
と、
ゴォォォォオッ
風は強く吹き、雨粒は頬にビシビシと当たった。
思わず目を閉じ、後ずさった。
すると、
「あの、秘密の茶会の場所ってここですか?」
突然声がかかった。
「えっ、はい。そうです!」
急いで声の方を向く。
そこに立っていたのは、私と同じくらいの中学生くらいの女の子。
「もしかして、支配人の雨澤…」
「あかりです!」
「そうそう。来てみたのよ。雨だから。」
そういうと彼女はニコッと笑った。
「嬉しいです。では中へどうぞ。」
入口へ案内し、窓際の席に座らせた。
あまがっぱを脱ぎ、エプロンに着替え、彼女の前に飴玉をみっつ置いた。
すると彼女はさっきみたいに、ニコッと笑って言った。
「雨の日だけに、飴玉ね。」
そういって、飴玉を色々な角度から眺めた。
「綺麗」
「透き通るように綺麗ね。飴玉なのに。ねぇ、食べていい?」
「えぇ、どうぞ。ご注文がお決まりでしたらお呼び下さい。」
私はミケの所に直行し、言った。
「ミケ、お客さん一名よ!準備して!」
するとミケは驚いた顔をした。
「早く人の姿に戻って!」
「そんなに急かさないでよ。ほら、彼女呼んでるよ!早く!」
私は急いで注文をとった。
「お決まりでしょうか?」
「えぇ。飴玉の幸せ味頂戴。」
…………幸せ味?そんなのあったかしら?
でも。久しぶりのお客さん。喜んでもらわないと!サービス精神よ!
「以上でよろしいでしょうか?」
「えぇ、」
私は礼をして、またミケのいる厨房へ急いだ。
「ミケ!幸せ味よ!幸せ味の飴玉!」
「そんなに叫ばなくたって分かったよ。幸せ味か。よし、メニューにはないけど、リクエストだな。頑張って作るよ!」