第19章 正体の時間
それから、あぐりが渡そうとしていた
「どこで使えばよいのか分からない巨大なネクタイ」を、彼女の懐から見付け、首に巻き
死んだ彼女に触れ、関係者に書き置きを残し、あぐりの傷口に触れ、飛び去った。
カエデ(あかり)が見た場面がここだということも知った。
とある山中で、彼は触手に願った。「弱くなりたい」と。
彼は親しみやすい姿に、弱点だらけに変わった。
彼女がやろうとしていた事を、やるために。
繊維の原料となる植物を見つけ、
現在のトレードマークであるアカデミックドレスを自作した。
死神は
そのドレスを着込むと、彼女がくれたネクタイに三日月をあしらった。
そして彼は新米教師となり、3年E組へとやって来た。
あぐりが遺した生徒たちを導くために。
その教室で、雪村あかり(茅野カエデ)によって
「殺せんせー」の名を受けたため、雪村姉妹の存在あって現在の殺せんせーが確立した。
これまで防衛省のみならず
幾多の腕利きの殺し屋やE組の生徒が殺せんせーを倒せなかったのも
殺せんせーが、「暗殺」をキーワードとして
生徒との絆を育もうとしたのも、全て彼自身が万事に通ずる史上最強の殺し屋だったから。
余りに壮絶すぎる過去を目の前に
殺せんせー暗殺のために送り込まれた転校生を含めたE組全員だけでなく
殺せんせーの出自について断片的に聞かされていた烏間も、彼の抹殺のために送り込まれたイリーナも、
全員が言葉を失ってしまう。
そんな中、殺せんせーはさらに言葉を続けた。
『『暗殺者』と標的という関係こそが自分たちを結びつけた絆であり、E組が暗殺を完遂してこの暗殺教室を修了させなければ、この絆は失くなってしまう』と。
殺せんせー自身は、あぐりから託された生徒たち以外には絶対に殺されたくないという気持ちに揺るぎはなく
E組がもし最後まで自分を殺せないならば、容赦なく地球と共に自爆する決意を持っていること。
E組による暗殺の成否が地球の命運を握っているという状況になんら変わりはないが
これらの真実によって
きっと、E組の皆はこれまで(現実味のなさゆえに)ろくに考えてこなかった
「本当に殺せんせーを殺すべきか否か」という問いを
真剣に考えることになるだろうと思った。