第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
書庫。床に読み終わった書物を山と積んで、それに埋もれるように三成はいた。読んでいた書が区切りのいいところまで来て、ふっと視界がぼやける。
おや。
目元に手を伸ばして、そこにあるはずの硬い感触に触れないことに気が付いた。顔を上げると、三成から取り上げた眼鏡を持って、悪戯っぽく笑う桜。
「桜様…!」
「三成君、やっと気づいてくれた。もう朝、だよ?もしかして、昨日あれから寝てない?」
指摘されてはっとした。灯していたはずの火は消え、部屋に差し込む明るい光。
「また、やってしまいました…」
「大丈夫?」
ショックにしばし呆然とする三成を、桜がのぞき込む。
「疲れてるなら、無理しないで部屋で眠って」
「いいえ、平気です。ただ…桜様とのせっかくの旅を、このような形で過ごしてしまったことに後悔の念を禁じ得ないのです」
悔しそうに言う三成の顔をきょとんとみて、桜はくすくすと笑いだす。
「大げさだよ、三成君。まだ朝餉が終わったばかりだし…今から、一緒にいるから」
「本当、ですか?」
最後少し照れてしまった桜の言葉を、三成が念押しする。本当、と返して。二人はふふふと笑いあった。