第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
「桜、いつまでそこで縮こまっている」
「だ、だって」
逃げた姿勢のまま、信長と光秀の「越後屋と悪代官」ぽいやり取りを見ていると、光秀が桜を手招きする。
あの二人の間に座るの、怖いよ…!
「来い、桜」
信長にも呼ばれて、仕方なく二人の間に腰を下ろした。
「お前、朝風呂にでも入ったのか?」
「入りましたけど…?」
桜の髪を一房すくいあげて、光秀が口づけるように顔を寄せた。一つ一つの動作に色気があって、目が離せない。
「…っ」
どたどたどた。
荒い足音を立てて家康が戻ってきた。自分がいたはずの場所に座る光秀と、それが桜の髪に触れているのを目にして眉をつりあげる。
「光秀さん…あんた、人のこと騙しましたね」
「何のことだ」
「政宗さん、俺のことなんか呼んでないじゃないですか」
「ああ、そうだったか?そんな気がしたんだ、すまん」
桜から離れ、しれっと謝る光秀に、まだ何か言いたげにしている家康の肩を、後ろからついて来ていた政宗が叩いた。
「お前してやられたな」
心底愉快そうに笑う政宗に伴われて、家康は不本意そうにしながらも、政宗と共に光秀の向かいに座った。
光秀さん、助けてくれたのかな?
それともただ家康をからかいたかっただけか。桜は光秀の横顔を伺うけれど、真意は分からず。