第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
「あの、ちょっと…」
何とか解放してもらおうと声を上げるけれど、まるで聞こえていない。家康と桜にお茶を持ってきてくれた女中が、顔を赤くして去っていく。
ああ、もう…!
恥ずかしさに熱くなる体。帰る頃には、溶けてなくなっているんじゃないだろうか。いっそ暴れよう。そう思ったとき、広間へ光秀が入ってきた。状況を察し、面白そうに笑っている。
うう、よりによって一番助けてくれなさそうな人来た。
「おはようございます」
信長様に向けて挨拶をして、すっと近づいてくる。
「家康、政宗が呼んでいる」
「…政宗さんが?」
やっと緩んだ家康の腕から、すかさず逃げ出す。
「まるで子ねずみだな」
この際聞こえる失礼な感想は無視。
「…はあ」
仕方ない、という顔で家康が広間を出ていく。家康が陣取っていた、上座の信長と桜に一番近い位置に、何の躊躇もなく腰を下ろした光秀。
「貴様は相変わらずだな」
「何のことでしょうか」
意地の悪い顔で笑い合う二人を見ていると、桜は時代劇の悪代官のシーンを思い出す。嫌な予感しかしないため、知らん振りを決め込んだ。