第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
…そういえば。昨日は秀吉さんが桜を入れてやったんだったな。
湯上りの桜が他の男と一緒なのを想像しただけで、怒りにも似た嫉妬心が湧く。
「桜、来て」
手を引いて、廊下を進む。
「どこ行くの?」
「外。…少し、散歩」
「うん」
このまま部屋に返したり、広間へ向かわせれば、必ず誰かと遭遇するだろう。せっかくだから、せめてこの子の火照りが引くまでは二人でいたい。
誰にも会わずに外へ出られて、安堵する。ちゃっかり手を引いたまま歩き出した。
「涼しい」
能天気に笑う桜に脱力する。家康とて湯上りだから、確かに気持ちは分かるけれど。
「よかったね」
「うん、ありがとう」
嬉しそうな桜の笑顔がまた可愛くて。景色を眺めるふりをして、赤くなった顔をごまかした。
そのまましばらく宿の周りを散歩していると、川の対岸へ渡る橋のたもとまでやってきた。眼下には川。自然と立ち止まる。
「桜」
「ん?ちょっ」
呼ばれて家康の方を向いた桜の両頬を、家康の両手が挟み込む。何かを確かめるようにぶにっと力が入る。
「なにするの」
「よし…戻るよ」
火照り、引いたな。
一人納得したように頷いて、家康はまた桜の手を引いて来た道を戻る。行動の意味が分からず、桜は頬をさすりながら大きな疑問符を浮かべていた。