第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
「お待たせ。家康」
戸を開けると、家康がぽかんと口を開けている。
「家康?」
「…っちゃんと、拭きなよ」
自分で持っていた手ぬぐいで桜の髪を覆うと、乱暴にガシガシと拭く。
「拭いたってば、いたた」
抗議する桜を無視して、家康は髪を拭き続ける。別に、拭きたくて拭いてるわけじゃない。
くそ、可愛い…っ。
湯上り美人、なんて言葉があるのは知っているけれど、ここまでとは。家康自身の顔と、桜の顔を隠すために咄嗟にとった行動にも、心臓がうるさく音をたてる。
手ぬぐいからようやく解放すると、ぼさぼさになってしまった桜の髪を撫でつけてやる。大人しくされるがままになっている桜が、様子を伺うように家康を見上げてくる仕草にときめく。
ああもう…可愛すぎ…。
子供が人形を抱きしめるように、桜を腕の中に閉じ込める。ぎゅっと腕に力をこめれば、柔らかな桜の身体は抱き心地がいい。
「い、家康…」
「何。嬉しかった?」
戸惑い気味に名前を呼ばれて、家康は腕を離す。顔を覗き込みながら聞いてみれば、ぷいと逸らされた。
「暑いだけっ」
「…ふうん?」
耳まで赤くなってるの、見えてるけどね。