第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
早朝。昨晩の出来事は少し気になったけれど、結局あの後すぐに眠ってしまった。
朝ごはんには大分早い時間に目が覚めて、せっかくだから散歩にでも行こうと部屋を出る。廊下をいそいそと進んでいると、見慣れた後ろ姿が先を行く。
「家康、おはよう」
くるりと振り返った家康は、桜が追いついてくるのを待って立ち止まった。
「おはよう、桜。ずいぶん早いね。お腹でもすいたの」
「お腹は大丈夫だけど…目が覚めちゃって。家康は?」
「俺は、風呂」
言われてみれば、湯上りのようだ。いつもの猫っ毛が、湿気でさらにはねている。
うーん、羨ましい。あの温泉に、朝入れたら綺麗だろうな。
「桜も入る?」
「え…いいの?」
願望がもろに顔に出ていたらしい。家康の提案に目を輝かせてしまう。
「いいよ。素直に甘えてなよ」
「ありがとう!」
朝日をあびてキラキラと湯が輝いている。今日もいい天気だ。夕方とはまた違う解放感に浸りながら、露天でくつろぐ。
熱い湯に身体がしゃきっとするのを感じながら、桜は今日一日を思い気合いを入れた。
秀吉は、余計な嘘を言ったりしない。たぶん、口説かれると言っていたのも本当なんだろう。
それなら、真剣に受け止めて、ちゃんと考えよう。昨日みたいにみっともない真似はしたくない。それに、家康達が気持ちを伝えてくれるまでは、私もできるだけいつも通りいよう。
そう決意を固めて、外で待つ家康を心配させないよう、早めに湯を出た。