第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
外に出たいという三成の言葉に、一度部屋に戻って着物に着替えた。三成が桜を連れてきたのは、玄関ではなく、いわゆる中庭。
川の方へ面していない部屋からでも景色が楽しめるようにと、趣向をこらしたらしい。格式の下がるこちら側の部屋には、今は誰も泊まっていない。
中庭の一角に床几があり、そこに並んで座った。三成がそばの灯りを吹き消す。
「女中の方に教えていただきました。この宿では、ひときわ星が綺麗に見えるのだそうですよ」
「わあ…!」
三成の言葉に空を見上げる。光の海に落ちていきそうだ。現代に比べれば、安土で見られる星だって十分すぎるほど綺麗だけど、ここが山の上だからか、それよりも星の数が多い。
「綺麗」
瞬きするのも忘れて、じっと空を見る桜ににこりと笑って、三成も空を見上げる。
静かな庭に、時折吹く柔らかな風。二人の呼吸と、衣擦れのかすかな音だけがする。
どれくらいそうしていただろう。ぼうっと空を見上げていた目線を落とせば、気遣わしげな三成と目が合う。
「桜様。少しでも…お心が晴れましたでしょうか」
「え…」
「皆様が、桜様の事を心配しておいででしたので…。私にも、桜様のために何かできればと、女中の方にお尋ねしたら、いろいろと教えて下さいました」