第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
「もう少し居座るかと思ってたのに」
慌てて出ていった政宗には、用事でもあったのだろうか。
着物を寝間着に着替えながら首を傾げる。
しかし正直、すぐ出ていってくれてほっとした。二人でどう過ごしていいのか分からなかったから。
泣いたこと、やっぱりバレてしまった。政宗はいつも、黙って見守ってくれているようなところがある。口調は軽いけれど、細やかに気を配ってくれるのだ。
布団の上で横になりながら、目元を冷やす。心地よいけれど、眠気は訪れそうにない。
「今日寝てばっかりだったもんなあ…」
むくりと起き上がって、寝間着の上に着物を羽織って部屋を出た。
手洗いを済ませ、廊下を戻る。部屋へ入ろうと襖に手をかけたとき、隣の部屋の襖が開いた。
「あ、三成君」
「桜様」
微笑む三成。秀吉の言葉がちらりと頭を掠めるけれど、振り払う。
「どこか、行くの?」
「ええ、この宿には書庫があると先程お聞きしたので。少し覗いてみようかと思っていたところです」
少し、ですむのだろうか…。
そんな桜の懸念をよそに、三成はにこにこと微笑んでいる。
「あんまり無理したら駄目だよ?」
じゃあね、と部屋に入ろうとした桜を、三成が止める。
「桜様。良ければ少しだけ、私にお時間を頂けませんか」
「うん、いいけど…」
じっと見つめられてどきりとする。頷いて見せれば、三成の微笑みが深くなった。