第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
「遅いな」
桜を待っていた秀吉は立ち上がる。嫌われたかもしれないし、そうでないにしろ自分にもう可能性はあるまい。
ただ、顔を会わせにくいとはいえ、放っておくというのは性格上無理だ。せめて、もう一度謝っておかなければ。
開けようとした襖が、一足先に開いた。主君が立っていることに狼狽する。
「信長様!」
「秀吉。散歩に付き合え」
「は…しかし」
本来断るわけにはいかないが、今は秀吉と桜の時間。邪魔はしない決まりのはず。
「…桜なら」
「!」
「俺の部屋だ。休ませてある」
驚きに目を見開いて主君の顔を見る。あまり多くを語らないこの聡明な男は、事情を察してくれている。
「話があるのなら後にするんだな。今は、俺の供をしろ」
「…は」
気遣いなどおくびにも出さず、ニヤリと不敵に笑い先に行く。その姿に、丁寧に頭を下げ、秀吉は後を追った。
「おや?」
夕食前に湯浴みをしようと歩いていた三成が、二人の姿をとらえた。
秀吉様は、桜様とご一緒のはずでは?
首を傾げるけれど、まあいいかと思いなおす。
秀吉様が桜様を放っておくことはありえませんし…お休みにでもなられているのでしょう。
自分が口を出すことではない。さて、風呂に向かおうとして、
「どちらでしたかね…」
迷っていた。