第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
小走りに進めば、ちょうど風呂にたどり着いた桜に追い付く。脱衣場まで一緒に入り、秀吉は念のため中を見る。
「誰もいない。何も気にしなくていいから、ゆっくりつかれよ?」
「うん…ありがとう!」
冬でないとはいえ、川の水に浸かり冷えた体を温められるのは嬉しかった。気兼ねなく露天風呂を一人で堪能できるのも、贅沢だ。
遠慮しすぎても仕方ないと、秀吉に素直に感謝を口にする。その顔を見て、秀吉は目を細めて桜の頭を優しく撫でた。
「あ、でも私替えの着物が」
着物を脱ぐ前に気づいて良かったと、取りに行こうとする桜だったが。
「さっき女中に頼んでおいたぞ」
…さすがだ。もう桜にはその一言しか浮かばない。そんな桜を脱衣場に残し、秀吉はピシャリと戸を閉めた。
「わ…すごい」
湯浴み用に着た襦袢を整えながら、思わず感嘆の言葉を漏らした。脱衣場から一枚の引き戸を隔てただけのそこは、見事な露天になっていた。
洗い場から湯の淵まではヒノキ板が敷かれ、ヒノキのいい香りが漂う。岩風呂にはたっぷりのお湯が張られ、目隠しを兼ねて植えられた大小様々な木々がそれぞれを主張している。
もちろん、川と対岸の林も見下ろせる。解放感は抜群だ。
「こんなお風呂一人でなんて、ほんとに贅沢」