第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
桜が脱衣所へ消えてから四半刻。入口に立つ秀吉の顔は、疲労の色が濃い。別に立っているのが辛いとか、そういうことでは当然ない。そんなやわな男ではないのだから。
桜が湯浴みしていることを嗅ぎ付けた政宗達が、代わる代わる来る。その度に追い払って、気付けば全員と顔を合わせた。気疲れにげんなりしているというわけで。
まあ、桜を覗きに来たわけじゃなく、秀吉へのけん制がしたかっただけのようで、皆すぐ離れていったが。
御館様まで来たのには参った…。
「光秀め…」
面白がって妙な言い方をしたに違いない男の名を忌々しげに呟いて、やっぱり見張っていてよかったと嘆息する。
夜桜が一人で入りに来ようものなら、ついていく奴が必ずいる。絶対にいる。
「そろそろか…」
中の気配を伺おうとして、いかんいかんと頭を振って少し離れる。脱衣所を人が動く気配がして。
「秀吉さん、お待たせしました」
「っ…おう」
咄嗟にそれしか返せなかった。しっとり濡れた髪とその香り。ほのかに赤く上気した顔。湯上りで熱いのか汗ばんだ首元。なんという役得。
「大丈夫?」
「…しっかり、温まったか?」
心配そうに秀吉を見つめる桜。動揺を悟られまいと、いつもの顔で笑いかけ、いつものように声をかける。傍から見るとあまり成功していないが、桜は騙せた。
「うん、ありがとう。お風呂、すごく綺麗だった」
「そうか、よかったな」