第12章 温泉旅行へ*1日目昼編*R15
せっかくの申し出に甘えることにして、桜はそのまま光秀に身体を預ける。目を瞑っていると、早鐘を打っていた鼓動は次第に落ち着きを取り戻していく。その内、また襲ってきた眠気に、次第に意識が沈んでいく。
「桜…」
光秀、さん?
「俺を選べ……桜」
温かな手が頬を撫でていく。
これは…夢を見ているの?
「桜、着いたぞ」
「わっ…あれ」
急に支えを失った身体がぐらりと傾いで、目を覚ました。まだ頭がはっきりしない桜の顔を、光秀がのぞき込む。
「よく寝ていたな…寝言を言っていた」
「えっ、うそ」
「うそだ」
「っ…もう!」
頬を膨らませて怒る桜の頬をつついて、光秀が笑う。
「そうむくれるな。ますます、お子様に見える」
「誰のせいですかっ」
「ほら、分かったから降りろ」
まだ機嫌は直っていなかったけれど、光秀から差し出された手を素直に取って、舟を降りる。船頭さんにお礼を言って、舟から離れた。宿までは、もう少し歩かなければならない。
「あの、光秀さん」
「ん?」
「この、手は…」