第12章 温泉旅行へ*1日目昼編*R15
桜の手は、舟から降りる時のまま、光秀と繋がれている。振りほどくのはさすがに失礼だと思って、尋ねる。
「足場が悪いからな。お前は、転びそうだ」
「う…」
否定できない自分が悲しい。
川岸を歩いているから、足元は石がごろごろしていて、確かに転びかねない。
「わあ、ここ綺麗ですね!」
結局そのまま歩いて来て、宿も見えてきた頃。流れが蛇行しているためか、川幅が広い所へ出た。水深も浅く、足首ほどしかない。
「入りたいな…」
つい願望が口をでて、しまったと思う。どうせまた、お子様だといわれるに違いない。しかし、この意地悪な同行者が発した言葉は違うものだった。
「入りたければ入れ」
「…いいの?」
「まだ時間が少しあるからな」
「ありがとう!」
履物を脱いで、裸足になった。恐る恐る水に足を付けてみる。ゆるゆると流れる水流を感じて、心地が良い。
「気持ちいいよ!光秀さんは?」
「俺は、いい」
光秀はひらひらと手を振って、手近な岩に腰を下ろす。桜は無理に誘うことはせず、着物の裾を少したくし上げながら、ぱしゃぱしゃと水を蹴る。