第11章 温泉旅行へ*1日目午前編*
これからまだ、お前は同じ言葉を何度も聞かなければならないだろうから。
だが願わくば。
「俺の物になれ、桜……」
戸惑うような表情で、腕の中にいる桜の唇を奪う。初めての桜の唇は、どんな菓子よりも甘くて柔らかで。
倒れた湯呑からは飲み残した茶が滴り、床を濡らしている。
「ん…ぅ…」
角度を変えて、ただ欲しいがままに口づける。その口づけに必死に応える桜の目が、蕩けたようなものに変わっていく。
馬にも一緒に乗れなかったし、他の者よりも二人きりの時間は短くなってしまったけれど。
桜のこんな顔見るのは、俺が最初だろうな。
「は…」
唇が離れても、いまだ余韻に浸る桜の姿が可愛くて、額に軽く口づける。
本音を言うなら。
このまま攫ってしまいたい。
だがまあ、決めたことは守ってやろう。
俺は桜を絶対に手に入れてやる。
他の誰かを桜が選ぼうとしても、掻っ攫ってやる、心ごと。
その自信があるから、今はここまでにしておいてやる。