第11章 温泉旅行へ*1日目午前編*
「どうした?行かないのか」
どうした?じゃない…!
先を行く政宗を睨む。
あんな告白を聞いて、あんな口づけをされた後で。
普通にできるわけない。
あの後政宗は、旅の後返事を聞くから普通にしてろって、何事もなかったみたいに立ち上がって。
「まだ時間があるから、見て回るか」
って、部屋を出てさっさと行ってしまった。
なんで告白した方はあんなに余裕なの?
「なんかムカつく」
背中に向かって小声で言う。
聞こえてはいないはずだけど、政宗はこちらを振り返ってきた。
「何か言ったか?」
「い、言ってない!」
取り繕うように慌てて追いつくと、すっと手が指し出された。先ほどの出来事が思い出されて、手を取るのを躊躇っていると、
「もうしねえよ」
「え…」
いつもの笑みで、政宗は言うと、私の手を自分から取る。
「口づけの続きは、旅の後でな」
耳元で囁かれるように言われて、かぁっと身体が熱くなる。そんな私の様子を見て、政宗は嬉しそうに、どこか切なそうに笑った。