第11章 温泉旅行へ*1日目午前編*
「やっと行きましたね」
煩い足音が遠退いて、ため息と同時にこぼした。あの政宗さんのことだから、着いてゆっくりする暇を与える間もなく桜を連れていくかと思ったのに、珍しくいつまでもだらだらと。
光秀さんが助け船出すなんて、槍でも降るんじゃないの。
「家康、貴様も呑め」
「頂きます」
信長様からの酌を有り難く頂戴してあおる。信長様に酌を返して、徳利をコトリと置いた。
「それにしても、さっきの奴はなんだ」
「吉次という男ですか」
秀吉さんの言葉に三成が答える。
さっきの男。三成のを数段嫌らしくしたような、胡散臭い笑顔を浮かべてた。
桜に触れたことは勿論だけど、信長様と政宗さんに挟まれて座ってるあの子に、よくもまあ近づけたものだ。
「よほど度胸があるのか、考え無しの阿呆なのかは知らんが、面白い奴だ」
今度は光秀さんと飲みながら、信長様がふてぶてしく笑ってる。この人はああいう奴、面白がるんだった。
「だが桜に関しては別だ」
心底不快そうに眉根を寄せて…今あいつ戻ってきたら斬りかかるんじゃないの、この人。まあそうなったとしても、別にいいけど。
「まあそう怒らずに…ひとまず、ここを堪能してはいかがですか」
「では家康様、この機会に是非お茶を」
「断る」
信長様をなだめる秀吉さんの言葉に乗じたのか知らないけど、三成が辟易するほどの爽やかな顔を向けてくる。俺はお前とお茶なんか死んでも嫌だから。
「では後でお部屋にお邪魔致しますね」
「聞けよ」
もう、帰りたい。