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【イケメン戦国】紫陽花物語

第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>





「楽しかったね」

「ああ、俺も楽しかった。ありがとうな」



空が黄金色から藍色に変わっていこうとしている頃、私たちは帰路についてた。

秀吉さんが家臣の人に聞いたっていうお饅頭の美味しいお店に行って、二人でのんびりお茶をして、他愛ない話をたくさんした。

二人並んで腰掛けていると話しやすくて、私は自然といろんな事を口にしていた。秀吉さんとまともに目を合わせられなくなってからこれまでを取り戻すみたいに、くだらない事を。

私が喋ってる間、秀吉さんはずっと笑顔で聞いてくれてた。うんうん、って頷いて、時折笑ってくれる。それが嬉しくて、つい時間を忘れてしまったな。

何杯目かのお茶のおかわりを飲み干してやっと、空の色が変わり始めていることに気が付いて、こうして二人また歩いてる。



「……」



すっかり冷たくなった風が、口を閉ざす二人の間を吹き抜けていく。足元に落ちるのは、繋がった二人分の影。

一歩一歩進む足は確実にお城への距離を縮めていくけれど、相変わらず二人の間に会話はない。繋ぐ手の温もりだけを感じながら、ちっとも苦にならない沈黙を味わっていると。



「こんな日が来るなんて、思ってなかったな」



ぽつりと落ちて来た呟きに顔を上げれば、私の顔を見下ろす秀吉さんの顔が優しく綻んでいる。



「それは、私もそうだよ。秀吉さんみたいに人気がある人が、私なんて好きになるわけないって思ってた」

「俺は初めから、お前の事ばかりだったけどな」

「え…っ」



驚いて立ち止まってしまった私に、秀吉さんは照れたように笑う。



「つれないお前に男がいると思い込んで、諦めようとしたんだけどな…無理だった」

「秀吉さん…」

「ほら、歩け。夜になっちまうぞ」



照れ隠しなのか、秀吉さんが私の手を引っ張ってまた歩き出す。その顔は私からは決して見えない方へ向けられていて。

気が付かなかっただけで、秀吉さんも私と同じように想ってくれていたんだ。それどころかきっと、私が秀吉さんへ抱いてた想いよりも、ずっとずっと苦しいものを抱えさせてしまっていた。


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