第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
そういえば、私は結局秀吉さんに自分の想いを伝えられていない。
いつもそうだ、家康に協力してもらって秀吉さんとの仲を何とかしようとしている時だって…私はいつも受け身で。
こうしてようやく秀吉さんと念願の恋仲になれた今、言わなくちゃいけないことがある。
「あの…秀吉、さん」
「ん?」
すっかりいつもの表情を取り戻してる秀吉さんが、私を振り返った。
もうもらえる答えは分かっているはずなのに、胸が高鳴るのを抑えられない。それでも橙の空を背にして、私は思い切って口を開いた。
「私…私も、ずっとずっと…秀吉さんの事を見てましたっ」
「さとみ…」
秀吉さんが私の名を呼ぶ。
顔に集まる熱は、目に涙が浮かぶほどに熱い。
ちゃんと、言わなくちゃ。
緊張で声が上ずっても、震えても。
「私…秀吉さんが、好き、です」
城への一本道を歩いてた私たちの周りには何もない。誰もいない。ただ私の声が、忍び寄る夜の気配に響いて消えた。
「……っ」
私の決死の告白を聞いた秀吉さんの顔が、どこか苦しそうに歪んだかと思うと、繋いでた手に力が籠った。
そのまま力強く引き寄せられた私は、温かな秀吉さんの腕の中。数刻ぶりの懐かしい感覚でも、慣れはしない。
「ひ、秀吉さん?」
「こっち向け…っ」
余裕のない秀吉さんの顔が迫ったかと思ったら、唇に触れている柔らかな感触。
戸惑っているうちにそれは一度離れ、深く熱い二度目が訪れる。
「ん…ぅっ」
痛い程に抱きしめられて
甘い口づけを求められて
「はぁ…」
吐息を吐く私を、秀吉さんは熱っぽい瞳で見つめてくる。見たことのないその表情に、鼓動が甘く鳴る。
「こんなところで…」
「お前が急に可愛すぎること言うからだ」
秀吉さんは、少しだけ意地悪に微笑んでから、私の腰を抱いて歩き出した。
「今日はお前の事、離したくなくなった…いいか?」
拒否する理由なんてない。
頷いた私を連れて、秀吉さんは城を素通りして御殿への道を辿っていく。