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【イケメン戦国】紫陽花物語

第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>





おう、と笑った秀吉さんの手が、私の頭を一撫でして離れてく。そんな些細な触れ合いの度、きゅんと心がときめいてしまう。


嬉しい。
秀吉さんの言うとおり、この櫛を毎日使おう。綺麗なさらさらの髪で、秀吉さんに会いに行こう。




「他に欲しいもんないのか?」

「う、うん。ないよ」

「遠慮はしなくていいからな。さっきも言ったが、俺がお前に贈りたいんだ」

「ありがとう…」



櫛を大事にしまった私の顔を見る秀吉さんの瞳が嬉しそうに輝いていて、治まりかけていた緊張が戻ってきてしまった。

固まってる私の右手を自然に取ると、秀吉さんはゆっくりと歩き出した。私は何とか一緒に歩きながら、繋いでる手を眺める。



どうしよう、ドキドキしすぎてる。



あえて考えないようにして、秀吉さんとのデートを楽しんでたのに…秀吉さんが私を見て嬉しそうに笑うから。大好きな瞳がすぐ近くにあるから。

叶ってしまった大望を改めて自覚してしまうと、自分の物であるはずの体を、どう動かしていいのかすらよく分からなくなってくる。

どこか楽しそうに並ぶ店を覗きながら歩く秀吉さんとは裏腹に、私の頭の中は混乱してる。


繋いだ手に込める力って、これくらいかな。
緊張しすぎて、今度こそ汗が滲んでしまいそう。


秀吉さんが私の歩調にさりげなく合わせてくれてるのに気が付いて、次は足元を見た。
二人の草履が、同じ調子で動いていく。


右、左、右、左…。



「きゃ…っ」



秀吉さんの足ばかり見ていたせいで、足がもつれた。

その瞬間、秀吉さんが繋いでた手にぐっと力を込めて、私の体を引っ張り上げてくれた。おかげで地面に転ぶのは免れたけれど、崩れた体の均衡はそれだけじゃ保てなくて、反射的に秀吉さんに倒れ掛かってしまう。



「ご、ごめんなさい…っ」

「大丈夫か?」

「うん…ありがとう」



はっと気が付くと、私は秀吉さんの体に抱き着いてた。咄嗟に抱き留めてくれたらしい秀吉さんの手は、私の腰に回っている。

その距離の近さと、周りからの視線に恥ずかしくなって離れる。秀吉さんも少し居心地が悪そうだ。



「…行くぞ」

「う、うん」



少しだけ足早にその場を立ち去って、甘味のお店に行くまでの間…秀吉さんは私の手をずっと繋いでいてくれた。

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