第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
…私の手、汗でべたべたしてないよね?
「柔らかいな、お前の手」
「え…そうかな」
「ああ、俺の手なんてでかくてごついだろ。やっぱり女と男じゃ違うんだな」
「私は秀吉さんの手、好きだよ。安心するから」
はっ。
私、なんて大胆なことを…!
焦ったけれど、秀吉さんの照れ笑いが見られてちょっと嬉しい。
「お前が好きって言ってくれるなら、俺も俺の手が好きになれそうだ」
「ふふふっ」
「よし、行くか」
「うん」
ほんと…夢みたい。私今、秀吉さんと手を繋いで…デートしてるんだ。
多くの人で騒がしい市に入れば、秀吉さんの姿に気がついた女性たちが駆け寄ってくる。
けれど、いつもは囲まれてにこにこしてる秀吉さんが、今日は私と過ごすから、って追い払ってくれて。それだけで、ああ私はこの人の特別になれたんだ、って実感が今更ながらふつふつと湧いてくる。
そのまま二人でぶらぶらと歩き回って、女性物の小間物を扱っている店の前までやってきた。
「あ…」
そういえば、使ってた櫛が少し壊れかけてたんだっけ。並ぶ櫛に思わずあげた声を、秀吉さんが聞き逃すはずもなく。
「ん、欲しいもんでもあったのか?」
「うん、新しい櫛を買おうかなって」
「櫛か」
秀吉さんが姿勢を低くして、並ぶ櫛を眺める。その真剣な横顔がとってもかっこよくて、目が離せない。
「これとかどうだ?…さとみ?」
「っえ!?あ、ごごめんなさいっどれ?」
ずっと見てたの、気づかれたかな?
どきどきしながら秀吉さんの手に乗る櫛を見る。桜の花の立体彫りが施された、つげの櫛だ。値段が…高い。
「素敵だけど、ちょっと私には買えないかも」
「心配しなくていい。迷惑かけちまった詫びと、お前との記念に俺から贈らせてくれ」
「えっでも」
この櫛、普段私が使ってるような物より数段品が良い。でもあまり強く遠慮しすぎるより、秀吉さんの顔を立てた方がいいのかしら。
頭をよぎる考えに気を取られているうちに、秀吉さんはさっさと支払いをすませてしまった。私の顔を見て、見透かすように小さく笑うと、櫛の包みを私の手に握らせてくれる。
「遠慮するな、俺がお前に贈りたいんだ。毎日ちゃんと使えよ?」
「うん…ありがとう、秀吉さん!」