第10章 温泉旅行へ*出立準備編*
「どうせ食わせるなら、あそこで呆けてる三成の口にでも放り込んでやれ」
光秀さんの言葉に、秀吉さんの逆隣に座る三成君に目をやる。
ほんとだ、なんかぼーっとしてる?
「三成君?」
呼びかけるけど…ダメだ。
お椀と箸を手に持ったまま、止まってる。
「おい、三成!」
ばしっと秀吉さんが背中を叩いて、やっと我に返ったみたい。
皆が自分に注目してるのに気づいて、目をぱちくりさせてる。
「おや…どうかなさいましたか」
「それ、こっちの台詞」
家康が三成君を見ないまま呟く。
「ぼけっとして、どうした」
「申し訳ありません、明日からしばらく仕事ができませんので、つい考え事を…」
「あまり無理するなよ、帰ってから俺も手伝ってやる」
秀吉さんが三成君に優しく声をかける。
ほんとに世話好きだなぁ…。
でも、信長様から命令があったわけじゃないんだし、そんなに忙しいなら無理しなくていいのに…?
「そんなに大変なら、無理に行かなくても…」
独り言のように口にすると、それまで上座に悠然と座って黙っていた信長様が、
「俺も無理にとは言っていない。貴様ら、残るか」
ニヤリと、言う。
「確かにそうだな、温泉は俺たちで堪能してくるから、仕事を消化したらどうだ」
私の肩をぐいっと抱いて、政宗も便乗する。
何ですか、この手…。
「政宗さんも、居残ってていいですよ」
私の腰を引いて、家康が政宗から離してくれた。あれ…なんか、睨みあってない?