第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>
「お二人は、本当に仲がよろしいのですね」
「お前の目玉にはおがくずでも詰まってるのか。いったいどう見たら、そう解釈出来るわけ」
「喧嘩するほど、と言いますから」
機嫌の悪さを隠そうともしない家康が、三成君に言い返しているのが聞こえる。嚙み合わない二人の会話が、私の真っ白になっていた頭を段々と現実へと引き戻していく。
ついムキになって喧嘩になってしまったけど、元はと言えば私が転んだせいだもんね。空気を変えなくちゃ。
「ねえ、家康。結局何の用だったの?」
「…別に、用なんてない」
「えっ?」
私と目も合わせずに、家康がそう答えた。予想外すぎる返答に、口を開けたまま家康をまじまじと見つめてしまう。
「何か用だったんでしょ?だって…」
「ない、って言ってるでしょ。俺仕事があるんで。失礼します」
「お、おい…」
私の言葉を遮って、これ以上ない程そっけない態度で捨て台詞を残して。家康は秀吉さんの呼び止める声すらも無視して、すごい速さでその場を離れてしまった。
あまりの事態に、そのまま秀吉さん達と顔を見合わせる。
「どうなさったんでしょう…?」
三成君の呟きの隣で、私は一つの可能性を考えてた。
家康は、一体何の用で私をここへ呼び出したんだろう。無駄な事をするような人じゃないし、きっと意味がある。
たとえドジが多くても、私はそこまで馬鹿じゃないと思う。あのタイミングで秀吉さんが通りかかることを、家康が計算していたとしたら。
ああ…私、台無しにしちゃったのかもしれない。
「…うう」
秀吉さんが横にいることも忘れて、無力感から思わず顔を手で覆った。
秀吉さんと私の仲を取り持ってくれようとして、家康はきっと何か考えてたんだ。それを、私が転んで台無しにしちゃった。そう考えれば、家康があんなに怒ってた理由も説明がつく。
これがほんとなら、全面的に私が悪い。次に家康に会ったら、謝らないと。
「さとみ、家康の事なら気にするな。あいつも本気で怒ってるわけじゃない」
「ええ、きっとさとみ様の事を心配されて、ついあのような態度になってしまったのだと思いますよ」
部屋へ送ってくれた二人が、ほっとするような笑顔と言葉を向けてくれる。