第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>
勢い余って縁側から中庭へ、落ちた体をしっかりと受け止めてくれた家康の腕の中で、私は恥ずかしさに笑うしかない。
「えへへ、ごめん…」
またやっちゃった。慌てたり焦ったりしてる時に限って…いや、だからかな。ドジしちゃうんだよね。家康がいてくれてよかった、じゃなきゃ絶対怪我してた…。
そう思って、未だ体を受け止めてくれたままの家康の顔を見上げれば、引きつった顔で固まってる。私が転んで飛んでくるなんて、予想外だよね。
けれど次の瞬間、家康の口をついて出た言葉に絶句する。
「この…馬鹿」
今…馬鹿、って言った?確かに、こうやってドジばかりしてるし、家康に見られてる回数は多いと思う。でも、そこまで言わなくたっていいじゃない。
「ば、馬鹿とは何よっ」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの」
普段は穏やかなその瞳が、苛烈に煌いてる。家康、なんでこんなに怒ってるの?心の中では疑問が湧いているけど、この状態の家康に何を聞いても素直に返事なんか返ってくるはずない。
「あんたがドジするのは勝手だけど、俺に迷惑かけるのやめてくれる」
「少し転んだだけでしょ?受け止めてなんて頼んでないよっ」
私が黙っていたのを良いことに重なる暴言。さすがに腹が立って、私の口から出る言葉も刺々しくなる。
「おい、二人とも!」
「お待ちください…」
ぐいと肩を掴まれて、私の体が家康から引き離された。興奮冷めやらぬままにその腕の主を見上げれば、眉間に皺を刻んだ秀吉さんが、私と家康を見比べている。
ひ、秀吉さん…!
怒りに沸騰していた頭が、冷水を浴びたように急速に冷えていく。
私今、秀吉さんに肩抱かれてるっ…いや、それよりも、家康に対して怒ってる顔、絶対見られたよね?一番見られたくなかった、最悪・・・!
「見てたぞ。さとみ、お前はもう少し落ち着いて行動しなさい。それから家康、心配だったのは分かるが、素直に優しくしてやれ」
「ごめんなさい…」
「…スミマセン」
こんなはしたない姿を晒して、挙句の果てに叱られるなんて。絶対印象悪くなったよね。
やっとのことで発した謝罪の言葉は、消え入りそうなほど小さかった。