第32章 キューピッドは語る Side:H <豊臣秀吉>
数日後に大きな軍議が控えていて、俺は今日政宗とそのための会議をしてた。
障子の向こうから望む山の景色は秋だって言うのに、今日はなんでかやけに暑いな。まあ、我慢できないほどじゃない。
同じように暑さに顔を歪めた政宗と共に、何とか議題をまとめ終えて解散した。細々とした雑務はまだたくさん残ってるが…明日までには終わるだろう。
廊下へ出た所で、家康とばったり顔を合わせた。
「どうした?家康」
「ちょっと所用で。秀吉さんは会議、終わったんですか」
「ああ、終わった」
所用?こっちには、俺達がいたような部屋が並ぶだけだが…。俺の疑問はしかし、家康がめんどくさそうに呟いた言葉にかき消される。
「…そういえば、さっきさとみが」
「さとみ?」
どくん、と鼓動が跳ねた。名前が出ただけで浮かれるなんて、どうかしてるな。
「秀吉さんを探してましたよ」
「そうか…じゃあ先に会いに行った方がいいな」
「ええ、そうして下さい」
それだけを告げて、家康があっさりと俺から離れて行く。
探してた…俺を?さとみが。
過度に期待なんか、しちゃいけねえ。あいつには他に想い人がいるはずなんだからな。きっと俺に頼みたい用でもあるんだろ。
妙に軽く感じる体で廊下を進み、さとみの部屋の前で声を上げる。
「さとみ、いるか」
衣擦れの音が聞こえて、すぐに襖が開かれた。驚いたように目を見開いたさとみが、俺を見てる。
「秀吉さん、どうしたの?」
「俺の事をお前が呼んでるって聞いたんだが…違ったか?」
「えっ?」
普段の可愛い声が一段階高くなって、さとみが目を丸くする。…んん?心当たりが無さそうだ。家康の勘違いだったのか?あいつは光秀の奴みたいに、悪戯はしねえからな。
さとみ、黙っちまったな。悪いことした。
「俺の勘違いだったみたいだな、すまん」
「ううん、大丈夫!えっと…」
何か言わなきゃ、って顔に書いてあるな。偶然なのかもしれねえが、この機会を活かしても罰は当たらないだろう。
せめて、笑い合える仲でいたい。
「さとみ。声かけついでに、良かったら一緒に昼でもどうだ?」