• テキストサイズ

【イケメン戦国】紫陽花物語

第32章 キューピッドは語る Side:H <豊臣秀吉>





いつからだろうな、あいつ…さとみに対して抱く感情に、俺自身が自覚したのは。

小さい体のくせして、人一倍働こうとするし。折れちまいそうな細腕で重い物だって平気で運んでいく。初めは生まれ持った世話焼き体質が疼いて、さとみの世話を焼きたくて仕方なかった。


女のあいつには大変そうな仕事だって、俺にとっちゃなんてことない。なのに、いちいち礼を言うんだ。本当に嬉しそうに目元を緩ませて、俺の目を見て「ありがとう」って。

いつしか、世話を焼きたいからさとみに手を貸しているのか、世話の見返りにもらえる笑顔のために手を貸しているのか…分からなくなった。それくらい、あいつの笑顔は可愛い。


だが…少し前から、さとみが俺に笑顔を向けてくれなくなった。手を貸せば「ありがとう」と言ってくれるし、話を振れば答えてくれるが。

俺の目を、見てくれない。


無理に視線を合わせてやろうとしたこともあったが、さとみはうろたえたように顔を俯かせて、足早に逃げていっちまう。


あーあ、やっちまった。


きっと俺のあずかり知らぬ所で、さとみの心を傷つけるような事をやらかしたんだろう。

嫌われたのなら、潔く諦めもつくってもんだ。関係を修復しようと焦った所で、俺に出来ることはない。


そもそも、俺の命は信長様のためにある。そのために生きる俺の横にあいつがいても、泣かせるだけだしな。

踏ん切りをつけたと思ったのに、さとみの姿を視界に捉えれば、どうしても目で追ってしまう。知らず内に観察しているみたいだ。かっこ悪いな、俺。


さとみは、俺とまともに目を合わせてくれなくなってから、頻繁に城を出てどこかへ出かけているようだった。その妙に嬉しそうな、浮ついた顔を見て、俺は合点がいく。


そうか、他にいるのか。


ハナから、俺の出る幕はなかったってわけだ。

/ 399ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp