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【イケメン戦国】紫陽花物語

第32章 キューピッドは語る Side:H <豊臣秀吉>





しかし俺の望みは、慌てたように目を泳がせたさとみの一言で、ガラガラと音を立てて崩れ去ることになる。



「あ…ごめんなさい、無理っ」

「そ、そうか…急に誘って悪かった」



強い拒絶の言葉に、俺の頭は殴られたような衝撃に揺れる。一瞬動揺してしまったが、だめだ。好きな女の前でかっこ悪くうろたえるなんて。

俺は努めていつも通り笑って見せて、断ったことに負い目を感じているであろうさとみの俯いた頭に手を乗せた。

…このくらいは、いいよな?世話を焼くのを楽しんでいた頃からの癖みたいなもんだ。

ぴく、と反応したさとみの髪をひと撫でして。名残惜しいと訴える指を、無理やりそこから引きはがす。



「じゃあ、俺は御殿に戻るからな」

「う、うん…」



顔に笑みを貼り付けたまま、俺はさとみに手を上げる。部屋から離れるように歩き出し、さとみが襖を閉じたのを音で確認した途端、全身が鉛のように重くなった。

いや、仕方ない事だとは分かってる。あいつに言った通り、急に誘った俺が悪かったんだ。用事があったって何もおかしくはない。

…俺と食事するのが嫌だったのか?

いや、やめよう。悪い方に考えても仕方が無い。さとみに問い詰めるなんてかっこ悪い真似もしたくねえ。

はー、情けねえな。さとみの事になると、どうしても臆病になっちまうらしい。三成みたいに、疑問に思った事を素直に口に出来たら楽なんだろうが。

誰もいない廊下で立ち止まって、念のため辺りを見回してから、俺は心の中に燻る負の感情を追い出すために、大きな息を吐いた。



「はー…」



バチン、と両頬を叩いて、ようやく少し気持ちが持ち直した。

よし。

ガラにもなく落ち込んでんじゃねえぞ、俺。山のようにたまってる仕事を片付けなきゃな。集中してしまえば、余計な事を考えずに済む。

御殿に帰る道程を一人歩く。我慢出来ると思った暑さも、今はただ鬱陶しい。

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