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【イケメン戦国】紫陽花物語

第31章 キューピッドは語る Side:M <豊臣秀吉>





「この…馬鹿」



静まり返ったその場に、家康の静かな声が響いて我に返った。予想外すぎる出来事に、俺ですら呼吸も忘れて呆けていた。

今起こった出来事を脳内で反芻するうちに、体の奥からこみ上げてくる笑い。本当にあいつらは、俺の期待を裏切らない働きをしてくれる。



「ば、馬鹿とは何よっ」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの」



未だ収まらない可笑しさをこらえつつ、言い争いが始まっている二人を眺めた。家康のやつ、相当怒っているな。地を這うような低い静かな声が、辛辣な言葉を並べ立てている。



「あんたがドジするのは勝手だけど、俺に迷惑かけるのやめてくれる」

「少し転んだだけでしょ?受け止めてなんて頼んでないよっ」



客観的に見れば、さとみと家康はさぞ仲睦まじく映る事だろうな。この言い合いももはや、素直になれない二人の痴話喧嘩にしか聞こえん。



「おい、二人とも!」

「お待ちください…」

「……っ」



今にも掴みかからんばかりの勢いでにらみ合う二人の間に割って入ったのは、誰あろう秀吉だった。その後ろからは、心配そうな顔をした三成も駆け寄ってくる。

苦い表情の秀吉に引きはがされた事で、家康の顔がはっとしたものに変わった。

俺を探して視線がこちらを向くが…いや、俺は出て行かないぞ。こんなおもしろい光景、見逃すわけには行かないからな。もう少し見ていたい。お前一人で頑張れ。



「見てたぞ。さとみ、お前はもう少し落ち着いて行動しなさい。それから家康、心配だったのは分かるが、素直に優しくしてやれ」

「ごめんなさい…」

「…スミマセン」



なんだあれは。悪さをした子供を叱る父親か。殊勝に頭を下げるさとみの横で、家康が最高潮にぶすくれている。笑いを堪えているこちらの身にもなってほしいものだ。



「お二人は、本当に仲がよろしいのですね」

「お前の目玉にはおがくずでも詰まってるのか。いったいどう見たら、そう解釈出来るわけ」

「喧嘩するほど、と言いますから」



三成の相変わらずの極上の笑顔に、家康が何かを諦めるようにため息をついた。確かに、これ以上三成と会話していたら、状況が悪くなる一方だな。

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