第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*
きらり。今度は光秀の目が何かを思いついたように光る。
「よし、たまには俺が桜の為に腕を振るってやるとしようか」
「やめてください、死人が出ます。それに、食事なら今政宗さんが用意してますから」
「そうか。それは残念だ」
家康の指摘にも、少しも悪びれない光秀は、楽しそうに喉の奥で笑っている。褥に寝たままそれを眺めていた桜のそばへ三成がやってきて、静かに座った。
「桜様」
「三成君…ごめんね、心配をかけて」
「いいえ。私が、もう少し気をつけていれば…」
申し訳なさそうに項垂れているその様子に、桜は慌てて体を起こした。膝の上で握りしめられているその手にそっと触れる。
「三成君のせいじゃない。私が濡れて帰ってきたのが悪いんだから…それに、ほら。熱ももう下がったし」
元気に声をあげてにっこりと笑って見せれば、三成はようやくいつもの笑みを浮かべた。何か言おうとした三成の着物を、家康が後ろからぐいと引く。
「わっ」
「気が済んだのなら、出ろ」
「そうですよね、すみません」
おとなしく立ち上がる三成の後ろから、秀吉や光秀が桜に視線を向けてくる。笑顔でそれに答えていると、家康がぴしゃりと三人の鼻先で襖を閉めてしまった。かすかに聞こえてくる文句を無視して、盛大にため息をつく。
「あんた、三成にはああ言ってたけど…まだきついでしょ」
「…わかる?」
耐えきれずに体を横たえる桜に、当たり前、と言葉を返すと、家康は桜に水を差し出す。
「寝続けたおかげで熱は下がってるけど、食事も薬も体に入れてない。このままじゃまた熱が上がるよ」
「…うん」
水を飲みながら、桜はその言葉に殊勝に頷いた。自分の体のことは、自分でよく分かっているつもりだ。一時的に引いた熱は、まだ体の奥でくすぶっているし、食欲もあまりない。
「ねえ、家康」
「何?」
「体を拭いて、着替えたいんだけど」
「分かった」
家康が呼んできてくれた女中の手伝いを借りて、桜は体を拭いて新しい寝間着に着替えた。ふらつく体でなんとか着替えを終えると、今度は家康と共に政宗が部屋へやってきた。