第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*
何度か、目が覚めた記憶はある。
熱のせいで体が重く、まるで鐘でも入っているように頭に痛みが響いていたことだけは鮮明に覚えているけれど。
誰かと会話をしたような気もするが、そんな夢を見ただけかもしれない。時間の感覚さえ危うくなるほど、桜の意識は夢と現実をさまよい続けた。
「ん…」
桜が、ようやくはっきりと目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎだった。一番高く昇った太陽が、既に傾き始めている。
ぼんやりと天井を見つめ続けている桜に女中が気付いて、慌てて家康を呼びに行く。ばたばたと遠ざかっていく足音を聞きながら、ようやく桜は自分の状況を把握したのだった。
「気持ち悪い…」
寝続けていたせいでべたついた体が不快だ。喉も乾いている。頭はまだ痛いし、全身がだるいけれど、症状は大分軽くなっているようだ。
起き上がろうとしていると、喧騒が部屋へと近づいてくる。それが何であるかを悟って、桜は苦笑した。
「桜、入るぞ」
「どうぞ」
襖が開かれると、案の定。ほっとしたような顔の秀吉と、今にも泣きそうな三成と、少しだけ優しい目の光秀が立っている。
「こーら、まだ起きるな。寝てろ」
「桜様、本当に良かった…」
「顔色は良くなってきたようだな」
秀吉が桜を褥へ押し戻し、三成は心から安堵を漏らして、光秀はニヤリと桜を見つめる。起きるのを待っていてくれたのだと思うと嬉しいけれど、ボロボロの姿をあまり見られたくない。
「ちょっと、何してるんですか」
遅れて足早にやって来た家康が、部屋の前に群がる男達をかき分けて桜の元までやって来た。桜を見て一瞬だけ目元を緩めると、不機嫌そうに三人を振り返る。
「邪魔だから、どっか行っててください」
「そんな事言って、一人で桜の世話を焼こうとしてるだろ」
「どんだけ世話したいんですか…」
俺にも世話を焼かせろ、と仁王立ちの秀吉に家康は呆れかえる。